前週の小欄を読んだ、友人でもある読者から電話があった。「この桜を見る会の前夜祭の領収書について、前に、確か、書いていたよね。大手紙が触れない、面白い指摘だったように記憶しているんだけど…」。そんな話だった。
 彼が言う、前号の「領収書について」というのは。

 ――一般的に領収書は宛名を「上様」として発行する場合があり、夕食会(前夜祭)でも上様としていた可能性はあるとのことだ(二〇年二月十七日・衆院予算委員会)

 安倍晋三首相(当時)が「私の事務所がホテルに確認したところ…」と前置きして答弁した場面である。

 最近、東京地検特捜部が安倍氏の公設第一秘書らから任意で事情聴取をしていたと明らかになり、安倍前首相は「秘書の報告を信用して答弁した」と弁解していると報じられている。これも真っ赤なウソである。今年二月二十五日号の小欄で、私は次のように書いている。少し長いが引用しよう。

 ――この方、いつの時代の話をしているのだろう。確か、三十年か、もっと昔か、「上様」の領収書が通用した時代があった、と記憶する。だが、いま、私が3・6街で“仕事”をした証として「上様」の領収書を弊社の経理担当社員に持って帰ったら、彼女は無言で突き返すに違いない。

 念のため、旭川中税務署の署員に聞いてみた。「上様の領収書は、通用しますか?」。彼は、首相のこの答弁を知っていたと思われる。受話器の向こうの苦笑いが見えた、気がする。「上様は、通用しません。宛名が空欄も、アウトです」。

 首相が口にした「私の事務所」の人間も、もちろんANAホテルの担当者も、飛び抜けて浮世離れした御仁か、もしくは浦島太郎でもない限り、「上様」の領収書を発行するなどという話をするはずがない。通用しないのだから。つまり、この答弁は官僚や秘書が書いたものではなく、一般市民と隔絶した暮らしをしている首相自身の言葉であると推認できる。

 想像するに、はるか昔、サラリーマン時代か、父親の秘書を務めた時代か、安倍晋三君は「上様」の領収書を書いてもらった記憶があるのかも知れない。その遠い記憶が“時代物の作り話”を創作させ、全国中継されている国会の場で、堂々と披歴させたのではあるまいか。(引用終わり)

 国会での度重なるウソは、父親・晋太郎に「言い訳をさせたら天下一品」と言わしめた安倍晋三という男の真骨頂だったのである。事件は「公設第一秘書の略式起訴で幕引きか」との報道もある。森友も加計も、桜を見る会も、すべて終わりということなのか。安倍―菅政権のもとで、私たちの国はなんと見事な法治国家に成長したのだろう。枕はここまで。

 ここ二カ月ほどの間に、複数の方から、「中原賞、作品の買い取りをやめるって聞いたけど、本当なの?」と質問された。美術関係者の間に、そんな噂が流れているのかもしれない。

(工藤 稔)

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