居間のテレビの前に、男前の琴欧州が贔屓(ひいき)だった義母の位牌を置いて、台所で家人が夕飯の準備をしている。大相撲が行われる十五日間の、我が家のいつもの風景である。

 ラジオで大相撲中継を聞いて育った世代だから、ファンというほどではないが、義母の位牌と一緒にテレビ桟敷で土俵を眺めるのは嫌いではない。そんな私だが、いま行われている初場所には“待った”をかけたい。

 電車や地下鉄に乗って、両国国技館に大相撲の観戦に出かけるのは、「急用緊急」(不要不急の対義語のつもり)なのか? 首都圏には緊急事態宣言が発令されて、昼も夜も外出自粛を求められているんじゃないのか? そのために廃業や休業を強いられている店や事業者が山ほどいるんじゃないのか?

 お相撲に興味がない方のために、少々解説を加える。私が怒るのは、相撲界は新型コロナで大変な状況を呈しているのだ。場所前、横綱白鵬の感染が分かり休場したのはご存知かもしれない。かなり騒がれたから。

 場所直前に力士や親方などすべての関係者を対象に実施したPCR検査で、力士五人の感染がわかった。それ以前に、四つの部屋でクラスター(集団感染)が発生しており、今場所は濃厚接触者も含めて、なんと六十五人もの力士が休場している。十両なんて、二十八人のうち九人が休場し、取組はたったの九番だ。化粧回しをつけた土俵入りはスカスカで、“ソーシャルディスタンス的土俵入り”なのかと勘違いするほど。

 しかも看板のはずの二横綱は不在。こんなボロボロ状態でも開催に踏み切った。その理由は、協会の財政的事情だとしか考えられない。歴史があるからか? 国技だからか?天皇賜杯という“印籠”の威力か? こんな不平等、不公平、特別待遇が許されるのか?

 さて、二十四日の千秋楽、優勝力士に内閣総理大臣杯を手渡すために、菅義偉首相は国技館に駆け付けるのだろうか。枕は、ここまで。

 前号で書いた、三・六街で四十年以上商売をしてきた七十歳代の飲食店主が、今月末で店を閉じると決めたと、人づてに聞いた。赤字続きの店に終止符を打ち、わずかな年金と生活保護で老後を過ごそうと決意したらしい。

 学生アルバイトを一人使う、常連客でもっている店だった。コロナ禍で客が激減した。

 「持続化給付金で、どうにか年を越した。売上げは前年の二割か、三割か。毎月赤字、持ち出しですよ。いつ店を閉じるか分からない。店を閉じたら、生活保護ですよ。国民年金だけじゃ、どうやったって暮らせないもの。いいよね? ずいぶん税金払ったんだから」

(工藤 稔)

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