「私たちは、民主主義が終わる時代に立ち会っているのかもね」とテレビのニュースを見ている家人が言う。米国の中間選挙翌日の七日、ホワイトハウスで行われた記者会見で、トランプ大統領がCNNの記者、ジム・アコスタ氏を指さして罵倒する映像を眺めながらの話である。


 そのやり取りの大要を再現してみよう。アコスタ記者は、トランプ大統領が選挙戦中の遊説で、中米からの「移民キャラバン」を犯罪と結びつけ、移民規制を強化すると繰り返し発言したことについて、「彼らを悪者に仕立て上げていないか」などと質問した。

 大統領は「あなたとは意見が違う。彼らは役者ではない。現実だ」などと答えた。アコスタ記者が「(移民は米国と)まだ何百マイルも離れている」として、危機を煽っているのではと食い下がると、「私に国を運営させて欲しい。あなた方はCNNを運営する。うまくやれば視聴率が上がる。もう十分だ」と質問を打ち切った。

 アコスタ記者がスタッフの女性研修生にマイクを取り上げられて着席すると、大統領は記者を指さし、「CNNはアコスタ記者を雇っていることを恥ずべきだ。あなたは無礼だ。ひどい人間だ。CNNで働くべきではない」と強い口調で非難した。立ち上がって抗議するアコスタ記者に向かって、さらに、「フェイクニュースを報道するなら、国民の敵だ」とこき下ろした。

 その後の報道によると、ホワイトハウスは、アコスタ記者の記者証をはく奪したと発表した。アコスタ記者はホワイトハウスへの出入りが出来なくなる。マイクを取り上げようとした女性スタッフに「手を上げた」ためだと言う。テレビの画像を見る限り、でっち上げである。言論の自由を保証する米国にして、このありさまだ。

 国内に目を向ける。ひと昔前なら、非難の声が沸き起こったであろう国会議員の発言が、何事もないかのごとく見逃される。嘲笑を浴びるわけでもない。歴史修正主義と呼ぶにはあまりに稚拙、トンデモ説である。安倍晋三首相があからさまに敵対視する朝日新聞十月三十日付の記事。衆院本会議で代表質問に立った自民党の稲田朋美・総裁特別補佐が憲法改正を主張するために、聖徳太子を持ち出したという。引用すると。

 ――(前略)稲田氏は質問で、聖徳太子が定めたとされる「十七条憲法」や明治政府の「五箇条の御誓文」を取り上げ、「多様な意見の尊重と徹底した議論による決定という民主主義の基本は、敗戦後に連合国から教えられたものではない」と主張。安全保障問題では「今こそ自分の国は自分で守る気概を持つべきだ」と訴えた。

 (中略)首相は、党役員会で「(稲田氏の質問は)堂々とやっていただいた」と評価した。

 記事では省略されているが、稲田氏は「敗戦後に連合国から教えられたものではありません」の前に「民主主義の基本は我が国古来の伝統であり」と述べている。そもそも「十七条憲法」とは、役人の心得、規範を示したものだ。学校でそう習った。民主主義とは何の関係もない。「和を以て貴しとなす」の文言で知られるが、「詔を承りては必ず謹め」(天皇の命令は必ず従え)という文言もある。十七条憲法は、聖徳太子が作ったとされているが、記録があるのは当時から百年も後に書かれた日本書紀で、その信憑性すら疑う研究者も少なくない。稲田氏が主張するところの「我が国古来の伝統的民主主義」って何だ?

(工藤 稔)

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