極悪非道のロシア、プーチンの戦争犯罪を許すなー――すっかり世界の嫌われ者になってしまった隣国・ロシア。擁護する姿勢を見せようものなら、袋叩きにされそうな世の雰囲気である。


 稚内でサハリンと商売をしている経営者はどうしているだろう。しばらくぶりに電話をかけてみた。彼は、二十五年ほど前から、稚内港に水産物を運んで来るロシア船の乗組員を相手に、日用品を販売している。一時期は、国内で廃棄される小玉のタマネギを年間数千トン輸出していた。六十歳代の彼の話。

 ――いま、ロシアは悪者になっているから、あまり大きな声では言えないけどさ、商売は続いているよ。ロシアからの水産物の輸入は禁止になっていないらしく、ウニやカニはどんどん入って来ている。コロナで船員は上陸できないから、スマホのラインやメールで食料品やウイスキーの注文が入る。支払いは現金。品物を届けたら日本円で払ってくれる。

 ――日本だって、サハリンの天然ガスは買っているんでしょう? 自分たちがほしいものは買うけど、ロシア人がほしいものは売らない、それは違うんじゃないの? ロシア人全部が悪いわけじゃない。長い商売の付き合いがあるわけだからさ。またロシアと大っぴらに商売ができるようになるのは、かなり先だろうね。細々とでもパイプはつなげておきたいと思うよ。

 私は稚内生まれだ。稚内と当時の樺太(サハリン)・大泊(コルサコフ)との間に運航していた稚・泊連絡船(鉄道連絡船)の、廃屋となっていた桟橋駅舎を知っている世代。かねてから、生きているうちに一度はサハリンを訪ねてみたいと夢見ている者として、どうにもやるせない気持ちで日々のニュースに接している。

 そんな折、四日付朝日の記事にちょっと救われた気がした。見出しは「ロシア事業 悩む欧州企業」「抗議の撤退か 使命で継続か」。書き出しは。

 ――ウクライナ侵攻を続けるロシアでの事業をめぐり、欧州企業が揺れている。批判を受けて撤退や縮小に転じる企業が相次ぐ一方、ロシア市民の命や生活に関わる使命感から踏みとどまる企業もある。判断理由を説明する声明からは、それぞれの悩みが垣間見える。(引用終わり)

 記事には、ロシアでの事業を停止した欧州や米国、日本の主な企業一覧がある。そして、記事は次のように書く。

 ――ルノーと一緒にゼレンスキー氏に批判された仏スーパー大手オーシャンは三月二十七日、ロシアの店舗を続けると表明。声明で食料を届けるために戦火のウクライナでも店を開けていると強調し、「ロシアの三万人の従業員も、戦争勃発の責任がない人々のために同じ仕事を行っている」と説明。「従業員と家族と顧客を見捨てられない」と述べた。

 ――製薬も一部継続する企業が多い。ドイツ大手バイエルは「全ての国で倫理的責任を負う」とし、がんの治療薬や妊婦向けの薬などを止めることは、「戦争の犠牲者を大幅に増やすだけだ」と理解を求めた。(後略・引用終わり)

 大合唱には警戒が必要だ。冷静に、客観的に、戦争の現実から目をそらすことなく、ものごとの本質を見つめよう。「だから日本も核武装が必要だ」「防衛予算をもっと増やさなければ」という与太話に決してのってはいけません。枕はここまで。

(工藤 稔)

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