国会で五月十二日、今後の日本のエネルギー政策を決める「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」が成立した。脱炭素社会の実現に向けた考え方や具体的方策を示したものだが、「再生可能エネルギーの主力電源化」を標ぼうしながらも、原子力や火力発電を重視し、それを国の責務で行うことを明確に示した内容だ。二〇一一年三月の東京電力福島第一原発の大事故により、私たちは原発の危険性を身をもって体験した。あの時、国民の誰もが「近い将来、原子力発電による電気は、使わないようにしよう」と決意したはずだった。たった十二年のうちに、そんな体験も決意もケロリと忘れて、「原発回帰」に突き進む政権を私たちは黙して許すのか――。

 横文字が多いから、ちょっと解説が必要だろう。そもそも「GX」って何だ?「グリーントランスフォーメーション」の略称で、温室効果ガスを発生させる化石燃料から太陽光発電、風力発電などの「クリーンエネルギー」中心へと転換し、経済社会システム全体を変革しようとする取り組みのこと。岸田政権は今年二月、「GX基本方針」を閣議決定した。その方針を実現するための具体的な法律として、脱炭素を進めるための「GX推進法」と、電源に関する五つの法案を束ねた「GX脱炭素電源法」の二つが作られた、わけだ。

 五月二日号の小欄で、友人の読者からの怒りのメールを紹介する中で、この「GX推進法」について解説している。 ――(GX推進法案は)企業などが削減した二酸化炭素の排出量に値段をつける「カーボンプライシング」を導入し、排出量の削減目標を達成できなかった分を市場から買い取らせるなどして金銭的な負担を求めるほか、脱炭素に向けた民間投資を後押しするため、新たな国債「GX経済移行債」を今年度から十年間、発行することなどが盛り込まれている。原発や火力を温存するために将来世代にわたって大きな国民負担を求める内容で、しかも官民のお金を流し込む先は経済産業省に委ねられるという、たいへん問題の多い内容だ。

 一方の「GX脱炭素電源法」は、原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案五つを束ねたもの。国の責務で原発を活用し、「原則四十年」という現行の原発の運転期間を経済産業省の認可で「六十年を超えた原発も稼働できる」と変更する内容を盛り込んでいる。
 つまり、二〇一一年三月十一日の東日本大震災後から示してきた、「可能な限り原発依存度を低減する」という原則を改め、既存の原発の延命をはかり、原子炉の新増設を推進する「原発回帰」の方向性を明確に打ち出したということだ。

 東日本大震災による東京電力福島第一原発の爆発事故で、原発立地自治体の福島県双葉・大熊両町はじめ周辺の町村のほか隣接県などから数十万人が放射能を逃れて避難を余儀なくされた。故郷を追われ、家族と引き離され、仕事を失うという、重大な災厄をもたらした原発への回帰が、こんなに静かに、大した議論もなく、なされて良いものなのか。

(工藤 稔)

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