農業者の友人から、「病気をしてから、なんだか難しい話ばかりだ。頼むから、もう少しやわらかい話を書いてくれないか」と懇請された。こちらとしては、そんな気はないのだが、もしかすると車の運転を禁じられて、行動範囲が狭くなり、いきおい書けるネタも少なくなって、読む側にとっては、つまらない話題になってしまっているのかも知れない。申し訳ない。で、これが友が求める「やわらかい話」かどうかは分からないが、畑のことを書こう。
「苗の定植は、招魂祭(護国神社祭)が終わるまでは絶対にダメだ」――私が自家菜園で野菜をつくり始めて間もないころ聞かされた、プロである彼のアドバイスである。彼自身が何度か痛い目に遭っているそうな。奥さんの話では、ズッキーニの苗を招魂祭の前に定植して、用心のためビニールトンネルを二重に被せたのに、遅霜にやられてほとんどダメにした経験があるという。「霜は怖いよ、本当に」、奥さんの実感である。
護国神社祭は、毎年六月四~六日の三日間。今年は日曜日から火曜日までだった。ホームセンターや種苗店の苗売り場は、半月も前から、行列ができるほどの賑わいだった。五月二十九日まで我慢して、東川町の松家農園でキュウリやピーマン、ナス、ナンバン、オクラの苗を買った。今年は家人のリクエストに応えてカボチャの苗も二本仕入れた。
トマトの苗は、谷口農場に予約しておいた桃太郎とリンカの二種類各五本を五日に受け取った。米ぬかや牛糞、カキ貝殻等をブレンドした肥料を使い、長い月日をかけて作り上げた土で育てたオーガニックのトマト苗。素人の私が育てても、しっかりトマトの味がする実を収穫できる。
予報では、六日までは最低気温が六度とか、八度とか一桁台だが、その後は最低でも十二度まで上がる。満を持して招魂祭の最終日、六日の朝四時半に起床して、苗を植えた。六時ころ、家人が起き出してきて、手伝ってくれた。去年は、定植を予定していた日の前日に、入院となったのだった。そんな話をしながら、約二時間で、支柱も立てて、千倍に薄めた「もみ酢液・ホッカイケムロン」(東川町・ノザワ物産製)を散布して、本日の作業終了。
「トマトもぎ取り園」を開園している農業法人が、シーズン前にトマトの苗木を一本二百五十円で販売する、商売敵を増やしているようなものだ、と思う。私がトマト農場の経営者なら、決してやらないサービスだ。ラーメンの山頭火のオヤジが、一時期、「ラーメン教室」を開講して、家庭でできる旨いラーメンを熱心に指導したことがあったけど、それと同じ感覚かな。「どうやったって、プロの味にはかなわないんだから」という自信、「くやしかったら、食べにおいで」ということか。確かに、ここ四年ほど、谷口農場のトマトの苗木を買って育てているが、やっぱり農場の直売店で買うトマトの方が美味しい、姿もきれいだし。悔しいけど。
予報通り、六日以降の気温は概ね高く、苗たちは順調に育っている。さて、今年の夏の天気はどうだろう。暑くて、適度に雨も降って…、となりますように。
十日付北海道新聞朝刊の国際面の見出し。「自衛隊車両100台提供」「ロシア、日本大使に抗議」。先月、広島で開かれたG7サミットで、岸田文雄首相がウクライナのゼレンスキー大統領に約束した自衛隊のトラックや高機動車など百台の提供について、ロシア外務省の次官が駐ロシア大使を呼びつけて強く抗議した、という記事だ。「高機動車」をネットで調べると、旭川の市街地でも走っているのを時折見かける、ジープのような形の車。十人乗りで、主に人員輸送用に使われるようだ。
記事には、次官は「(日ロの)二国間関係をさらに危険な袋小路に追い込み、深刻な結果を招く」と抗議したそうな。「危険な袋小路」「深刻な結果」、恐ろしい言葉ですねぇ。戦争が迫っているような気にさせられません? 憲法九条を有する日本の国民は、こんな怖い状況に陥ることはないはずなのに。私たちは、いつから戦争に巻き込まれる可能性を持つ国の民になってしまったのだろう。
(工藤 稔)
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