第五十五回小熊秀雄賞を受賞したアイルランドの首都ダブリン在住の詩人、津川エリコさんと時々、プライベートでメールのやり取りをしている。月に一度、本紙の第四週号にエッセイ『あいるらんど から あれこれ』を執筆していただいているから、原稿を送っていただくついでに雑談を、ということもある。話題は、互いの読書情報の交換やら、身近な自然の話やら、八時間の時差があるアイルランドと日本の政治状況の違いやら。短い文章の中に読み取れる、彼女の温かな世界観や鋭い観察眼、独特の視点に時に驚かされながら読んでいる。つい最近届いた短いメールを紹介しよう。

 ――イスラエルによるガザの病院爆発に関するアイリッシュタイムズの記事で「日本には『人を呪わば穴2つ』ということわざがある」と書かれていました。思いがけないところで日本のことわざと巡り会いました。

 あらためて津川さんの略歴をたどってみると。一九四九年、釧路市の生まれ。実父の死で、母親が再婚して十一歳のときに旭川に移り住む。旭川東高では、『小熊秀雄論考』の著者・佐藤喜一さん(一九一一―九二)に国語を習った。その頃に詩を書き始めたそうだ。道教育大旭川校を卒業し、上京して日本語教師などを経て、四十歳のときにアイルランドに移住。現地の男性と結婚、一児の母である。二〇二二年、『雨の合間』(デザインエッグ)」で第五十五回小熊秀雄賞。同年、小説『オニ』(『北の文学二〇二二』所収)で北海道新聞文学賞受賞。著書に詩集『アイルランドの風の花嫁』(金星堂)、随筆集『病む木』(デザインエッグ)がある。

 津川さんは、地元旭川の出版社、ミツイパブリッシングのウェブ・マガジンに月一回、『ダブリンつれづれ』のタイトルでエッセイを書いていて、現在七回分がアップされている。あさひかわ新聞の連載も素敵に面白いけれど、ミツイパブリッシングのエッセイは、たっぷりのボリュームで、津川さんの詩的な文章と、ものの見方、奥深い重層的な考え方が心に沁みます。

 あっ、ところで、「人を呪わば穴2つ」ってことわざ、通常、ほとんど耳や目にする機会はありませんよね。由来は平安時代の陰陽師にあるとのこと。陰陽師は官職の一つで、中国を起源とする陰陽道により政治や占術、呪術などを司る役割をしていた。権力者の依頼を受けて敵対する者を呪術で殺すという仕事も行っていて、呪い返しも覚悟して自分の墓穴を用意していたという逸話があるそうな。相手と自分の墓穴を二つ用意していたことが、この言葉の由来となったという。

 津川さんのメールにある「アイリッシュタイムズ」は、ウィキペディアによれば、ダブリンに本社を置く、一八五九年創刊の日刊紙。左翼寄りのリベラル紙で知識人層に読まれている、とある。「イスラエルによるガザの病院爆発に関するアイリッシュタイムズの記事」とは、十月十七日に発生したパレスチナ自治区ガザ地区の病院の大惨事のことだろう。以下、二十五日付朝日デジタルの記事を引用する。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。