米大リーグ・ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手がSNSを通じて、「野球しようぜ!」のメッセージとともに、日本のすべての小学校二万校にグローブを寄贈すると発表したニュースが話題を呼んでいる。その数は一校に三個。キャッチボールは二人でできるのに、なぜ三個かと思ったら、右利き用二個と左利き用一個だそうだ。

 寄贈するジュニア用グローブは大谷選手がウェアやグローブなどで契約を結んでいるニューバランス製だそうな。貧乏人はすぐお金のことを心配する。値段は、長持ちする上質なものは一個一万円くらいだそうだから、しめて六億円。今年の年収が六千五百万米ドル、日本円で八十四億五千万円だというから、納める税金を考えれば、まっ軽いか…。

 SNSに寄せられた反応を二つ。

 ――人格者がお金を持つと、こんな素敵なことになる。

 ――見ろよ、このスケール。こういうのを「異次元」って言うんだよ。わかったか岸田。枕はここまで。

 過日、農業者の話を聞く機会があった。初代が明治期に富山県から入植し、一九六〇年代に農業法人を設立した、道内の農業生産法人の草分け。自然素材による土づくりを掲げ、米作とトマトを中心に有機農業に取り組んでいる先進的な農業経営者だ。水田と畑合わせて七十五㌶を約三十五人の社員・スタッフが耕す。歳は筆者よりも二つ上だから、ほぼ同世代。夏場の我が菜園のトマトの苗は、この農場産である。以下、「農業現場でのモヤモヤ感の正体は…」と題する講演の抄録を。

 ――私どもプロでありながら、コメは収穫するまで、平年の作柄よりも少し良いんでないかな、という観察をしていたんです。ところが、長年やっても節穴で、刈り取りをしてみると、アレレというのが実感です。大器晩成、大器熟成ということを良くいうんですが、今年の場合は、おしなべて生育急ぎすぎ。おコメの場合は、収量は伸び悩み、食味も高温障害の顕著な例で、白米の前段の玄米の透明度が低い、濁りがある、これは食味に連動しているかどうか、ちょっと分からないんですが、我々が食味の物差しの一番拠り所としているタンパク質の含量も高めということで、ややボソボソ感のあるコメ、ということになるようです。まぁそこまで悪くはないんですが、いつもの秋みたいに、作っている私も感動しなかったというのが、率直なところです。

 トマトは、ハウスがもともと暑いからそれなりの換気対策をしているんですが、受粉しないで、「花落ち」というんですが。特に九月ですね、暑くなって上の方の段位の受粉がきちっとできなかった、ということで収量が落ちました。トウモロコシも、通常なら、あのヒゲ一本一本がきちっと受粉をして、一つ一つの実が肥大していくということなんですけど、部分的に受粉不良というか。これ、暑さと水分の関係と両面あるのかもしれませんが、そういう不良品が出て、本当にお客さんに叱られました。これは大阪の方の市場の担当者のブラックジョークですが、「今年の北海道のトウモロコシには手を出すな。甘さより辛さを味わうぞ」って。そんなことまで言われて、本当に市場の相場は不振でした。私どもは、幸いそこまでではなかったのですが、それでもトウモロコシを作り始めて一番不良品が多かった年です。

 最後、とどめはブロッコリー。作り始めて二年目です。暑いときに苗を育てて、畑に植えるという選択をしたばかりに、苗もよく育たなかった。植え付けても高温のために水分がすぐ抜け出て活着しなかったということで、収穫は皆無に等しいような状況でした。
 ――そんなこんなで、モヤモヤ感の一番はここにあります。やはり自社のモノづくりが不調だった、ということ。温暖化が当たり前になってきている。学術的にはよく分かりませんが、そういう前提でこの先、対応していかなきゃと覚悟を定めています。うちの会社でオリジナルの技術、稲の苗をハウスで二回つくる、二期作をやる。五月の十日ごろ早めに田植えをして、苗箱をすぐ回収して種を撒いて育てて、六月の十日前後に二回目の田植えをするという。ま、あまりやってもいないし、やる必要もない方が大半だと思うけど、うちの会社では、働き方改革も含めて、作業期間を長くするということは、現場の労働配分も容易になるということで八年前から、この技術を導入しています。

 最初のころは物笑いのタネでした。しかし八年もやって、ちょっと悪かったのは二〇一八年だけで、それだけ遅く植えても、普通に植える栽培方法の九分くらいの出来。年によっては、今年もそうですが、遅く植えた田んぼの方が良かったという。これこそ、旭川の温暖化の顕著な実例だと私自身は思っています。私どもが若いころは、田植えは六月五日に完了しないと、それも今のように機械じゃなくて、苗質の充実したものを六月五日までに植えなきゃ、ということだったんです。八年間で一年だけは作柄が悪かったんですが、今年はその遅く植えたおコメでさえ、検査員が驚いていたんですが、熟しすぎ、ま、「焼け米」というものが目立ったという、異常な夏だった。ベトナムやインドネシアの実習生も、ハウスの中でトマトの仕事をしてもらっていますから、なおさらですけど、こんな暑い夏なのって、驚いていました。

 講演は、この後、公務員スタンダードの「働き方改革」についてや得意の有機農業の話へと続く。それは次号で。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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