何かを始めるきっかけは、たいていそうなのだが、お酒をいただいて、気分が高揚して、気が大きくなって、「やろうじゃないか、なんとかなるって」と口走って、そして後から、汗や、時には冷や汗をかくはめになる。考えたら、所帯を持ったときも…。やめよう、今さら、家庭内争議を引き起こすような話は。

お米を作ってみたい、という気持ちは自宅の日当たりの悪い畑で野菜を育て始めた頃から、あった。おかずや肴ではなく、「主食」を自分の手で、という気持ち。酒の席で、そんな夢みたいな話をしたんだと思う、覚えてないんだけど。そして、たまたま一緒にいたのが、僕と違って妙にマジなところがある友人だった。で、ともに二十年ほどお付き合いをさせていただいている農家に話が行って。その農家の友人も、かなり律儀な人で、「一反四畝の田んぼがあるから、ちょうどいい広さじゃないかい」となっちゃった。

先日、その話に乗った仲間二人と一緒に播種の作業と、種を播いたポット(田植え機にセットする苗床)を育苗ハウスに並べる作業を体験してきた。苗の育ち具合を時折のぞきに通って、五月二十日前後には、いよいよ田植えだ。田植え機を使わずに手で植えてみようと話し合っている。それにしても、お米って、日本人の気の遠くなるような長い経験と知恵と工夫が凝縮された主食なんだと、作業をしながら改めて感動させられる。

酒の席のホラ話から出たやっかい事に巻き込んでしまったご夫妻には申し訳ないし、果たして無事に秋の稲刈りを迎えられるか、はなはだ心細いが、半年間、主食づくりを楽しませてもらおうと思っている。自分が種を播いたお米って、どんな味がするんだろう――。

七十歳代の女性読者から手紙が届いた。前号の小欄に対するご意見。その一部を引用すると――

今週の編集長の直言に「今の自民・公明の政権が、これでもか、これでもかと大盤振る舞いする原資は、すべて借金。定額給付金も、高速道路のどこまで走っても千円も、そう遠くない時期に、私達国民は間違いなく返済を迫られるのだ」とありました。その通りだと思いました。

…国民は四年前の選挙で、小泉首相の「構造改革」「官から民へ」「改革なくして成長なし」というワン・フレーズ政治に煽られるように、自民党やその候補に一票を投じ歴史的ともいえる大勝を与えました。私自身は、あの流行病のような現象に何か違和感を覚え、自民党には投票しませんでしたが、国民の多くは小泉自民党を支持したのです。

…その小泉さんから安倍さん、福田さんと総理大臣は替わり、いま麻生総理は、未曾有の経済危機を口実に、小泉改革路線とは正反対の大盤振る舞いの政治をやろうとしています。国民は、結果的にどうだったかは別にして、小泉路線を支持して自民党に政権を預けたはずです。

…国民の判断を仰がずに定額給付金に代表される愚策、無駄づかいを黙認していいとは思えません。その膨大な無駄づかいのツケは、必ず近い将来、私達国民に回ってくるのですから。「高速道路一律千円」を例にとっても、十年間に三兆円の税金が高速料金の値下げに注ぎ込まれ、それは国民一人当たり二万四千円の負担に相当するといいます。一日も早く選挙で国民の信を問うべきです。その上での大盤振る舞いならば、国民も受け入れなければならないでしょうけど。…

小沢・民主党党首の秘書逮捕で、麻生首相の不人気ぶりが底を打ち、世論調査の支持率も回復の兆しを見せていると伝えられる。根っからのお調子者なのだろう、麻生首相が上機嫌に漫画通をひけらかす場面もあるとのこと。十九日付の読売新聞によれば、記者団とのやりとりの中で、プロ野球記録を更新する安打を放ったイチロー選手の感想を聞かれると、野球漫画「あぶさん」の話を持ち出して「あぶさんの年齢知ってるか」などと逆質問を連発したそうな。会見台にだらしなく両肘をつき、ベランメェ調も滑らかに得意満面で語る様子が目に映るようである。

定額給付金の是非論が華やかなりしころ、麻生首相は、お金持ちが受け取ることについて「さもしい」とおっしゃった。麻生首相の支持率が上向いた要因の一つを「定額給付金の給付が始まり、お金を手にした人が好感した」との分析があるらしい。あぁ、自民・公明連立政権は、日本国民総さもしい現象の現実を見せつけてくれるのですか…。

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