今は東京に住んでいる、小紙の「こどもの本棚」の執筆者の女性が、「帰省したので」と、ひょっこり会社に現れた。彼女が「勤め先で売っているんです」と差し出したのは、「雷おこし」。パッケージには「世界文化遺産」の文字と、見覚えのある建物の写真があった。先月、世界文化遺産への登録が決まった、フランスの建築家ル・コルビュジエ(一八八七―一九六五)が設計した、東京・上野の、あれ、である。

 「旭川市役所が解体されそうなんですね。あさひかわ新聞で知りました。西洋美術館より先に出ているのに…」と彼女は言った。その意味は、国立西洋美術館は〇三年、近代建築の記録と保存を目的とする国際的な学術組織DОCОМОМО(ドコモモ)の「日本におけるモダン・ムーブメントの建築一〇〇選」に選定されている。同時期に旭川市役所の「赤レンガ庁舎」も選ばれているのだが、公表されているそのリストの順番が我が赤レンガ庁舎が五十三番目、西洋美術館はその下の五十九番目なのに…ということだ。

 自分の勤め先は世界遺産に登録が決まったのに、故郷の懐かしきシンボル、赤レンガ庁舎は解体の危機にある、十数年ぶりに顔を見せてくれた彼女は、ミュージアムショップで売っている雷おこしを土産に、その話をしに来てくれたのだろう。西洋美術館の入館者は、世界遺産登録のニュースが流れた途端、急増したのだそうだ。「旭川市役所も、残し方によっては、そうなるような気がします」と励ましてくれた。

 読者からメールが届いた。匿名ではない。件名は「新庁舎建設問題について」。メールは、次のように書き始め、かなりの分量の添付文書がある。

 ――昨日、青年大学で市民文化会館に行きました。入口で総合庁舎の方を振りかえると、庁舎とバックのグランドホテルの窓の明かりがついた景色は、悪くないというより、なかなか良いものでした。その時、ふと新市庁舎建設計画を思い出しました。完成後の景色を想像したとき、このプランは旭川の歴史と未来を奪う計画だと強く思いましたので、初めてメールします。

 私が最初に新市庁舎建設計画の中身について関心を持ったのは、確か七月三十日、北海道新聞の記事(2面に大きく掲載)を読んだ時からです。記事を読んで、市庁舎が二期に分けて二棟建設されることと、なぜか市民文化会館の建て替えが入っていることに疑問を持ちました。

 そこで旭川市のホームページから「旭川市新庁舎建設基本計画骨子」というデータを見つけました。最初の基本方針は、口あたりの良い文章が続き、なるほどと読んでいました。ところが、具体的な敷地計画や建築計画を読んでいくと、なぜか、建設と解体を繰り返し、すべて完成するまでの期間が長く、工事騒音や交通渋滞がずっと続くことに、なんか嫌だな、と感じたのです。

 基本方針の最後に、「人にやさしい庁舎」、「地球にやさしい庁舎」と書いてありましたが、これは絶対嘘だと思いました。

 この計画でいくと、建設が始まる三年後から完成するまでの約十年間、建設と解体工事が続きます。市職員は仕方がないと思いますが、市役所や文化会館に来た人、周辺の住民、ホテルのお客はずっと工事騒音に悩まされ続けるわけです。さらには、文化会館を建て替える影響で地下駐車場も解体されることになっています。代わりの駐車場は現・第三庁舎の跡地とのことですが、いくら広くても青空ですし、道路を一本隔てていて随分不便になります。人にやさしいどころか、苦労を強いる計画です。また、本庁舎、市民文化会館、第三庁舎、加えて地下駐車場まで解体するのは、地球を傷めつける計画としか思えません。

 なぜ、こんな計画になったのか。全体の基本方針と建設計画について、私なりに考え、調べて感じたことを書いて送ります。

 

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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