グループハウスに入所している母親が新型コロナ感染症に感染したという話を、二月二十二日号の小欄に書いた。お会いした方や電話で、たびたび「お母さん、その後どうですか」と尋ねられる。私事だが、普遍的な面も少しありそうだから報告させていただく。


 感染判明後、施設で療養していたのだが、熱が下がらず、入院となった。その夕、主治医から電話があり、両方の肺に肺炎の症状があると伝えられた。重篤ではないが、九十六歳という年齢からして、安心はできないとの説明だった。

 その後、こちらから担当の看護師に電話をかけて容態を聞いたりした。緊迫した状況で仕事をされているであろう看護師だが、丁寧な対応だった。入院から二週間後の夕方、母親の携帯電話から着信があった。入院時、施設のスタッフが持たせてくれたのだろう。

 母親の用件は、スプーンだった。指が自由に動かなくなった数年前から、「ケンジースプーン」を愛用している。旭川の加藤筧治(けんじ)さん(84)が発明した、先割れ万能スプーン。つまむ、挟む、カットする、汁物もすくえる、麺も大丈夫…。外で食事するときも必ず持参する、なくてはならない母親の“食事の友”である。

 母親は力ない声で「病院に持って来てくれるかい?」と言う。入院時、保険証と一緒に家人が施設に届けたのだが、病院には持たせなかったようだ。翌朝、病棟に届けた。帰途、家人は「食欲が出てきたんだわ。もうすぐ退院できるね」と明るい声で言った。さすが、食いしん坊の私の母親である。

 そのケンジースプーンだが、類似品も出ていて、純正品は市内の店では売っていないようだ。加藤さん(TEL・FAX55―1139)に連絡すると良い。値段は、携帯ケース付で千五百円(税込み・送料込み)。ちょっと変わり者だけど、根はいい人です、念のため。

 韓国の新しい大統領に大接戦を制して保守系の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が就いた。安倍晋三政権が戦後最悪にしてしまった日韓関係が改善されるか、注目が集まる。

 さて、新潟県の佐渡金山遺跡の話である。政府は、来年の世界文化遺産登録を目指し、国内候補としてユネスコに推薦することを決めた。二月二日付朝日の社説を引用しよう。

 ――(前略)岸田政権は当初、(推薦)見送りを検討した。韓国政府が、戦時中の朝鮮半島出身者の「強制労働」を主張しており、登録の難航を予想したためだ。だがその後、安倍元首相ら自民党内の反発などに押され、推薦に転じた。

 この曲折の背景には、七年前にユネスコで登録された「明治日本の産業革命遺産」の問題がある。このときも韓国が強制労働問題を提起し、紛糾した。

 日本政府は「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者らがいた」と認め、犠牲者らを記憶にとどめる措置をとることを約束した。

 だが、ユネスコの委員会は昨年、いまだ日本の措置は不十分だとして「強い遺憾」を全会一致で決議した。十二月までの報告を日本政府に求めている。

 佐渡金山をめぐり政府内で慎重論が出たのは、審査で「強制労働」に焦点があたり、当時の約束の問題が蒸し返される可能性があるためだ。

 それだけではない。「世界の記憶」(旧記憶遺産)では「南京大虐殺の記録」が登録されたのを機に、加盟国が反対すれば登録されない制度に変わった。推進したのは日本である。佐渡金山の登録を強引に進めれば、主張の整合性がとれなくなるという事情もあった。(後略・引用終わり)

 二〇一八年四月、ある異業種の団体旅行で長崎を訪ねた。街中にある軍艦島デジタルミュージアムに立ち寄り、翌日は凪に恵まれて明治日本の産業革命遺産・軍艦島クルーズで端島にも上陸した。

(工藤 稔)

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