二十二日夕方、家人とテレビで大相撲を見ていた。老夫婦の数少ない共通の趣味というか、話のネタである。二人とも奇跡の復活を果たした、モンゴル出身の照ノ富士が贔屓(ひいき)だが、今場所は途中休場でちょっと寂しい。
 と、テレビ画面にテロップが流れた。東京電力管内で電力の需給が逼迫(ひっぱく)し、企業や家庭に節電を呼び掛ける「警報」が発令されたという内容。その後、萩生田経産相の緊急記者会見の映像も繰り返し放送された。経産相は「各産業界や家庭、職場でもう一段の更なる節電をお願いしたい」と呼び掛けていた。

 真夏ならいざ知らず、なぜこんな季節に電気が不足する? 十六日の地震の影響だとしても、どうして、もっと早く手を打たない? 「そうか、ロシアのウクライナ侵攻と円安で原油価格が暴騰しているとして危機を煽り、原発再稼働を目論む原子力村と結託した政府の脅しなのか?」と勘ぐったりした。

 翌二十三日付読売朝刊一面トップの見出しは「電力逼迫 停電は回避」「東電管内 使用率 一時100%超」。そのリードを。

 ――東京電力と東北電力管内で二十二日、電力の需給が逼迫し、大規模停電が発生しかねない事態となった。福島県沖の地震による火力発電の停止に加え、両管内で三月下旬としては厳しい寒さに見舞われたことで、電力の使用量が当初予定していた供給力を上回った。夜間にくみ上げた水を放流する「揚水発電」の活用で何とかしのいだが、綱渡りの状況は当分続きそうだ。(引用終わり)

 トップ記事の下に、「首相も呼びかけ」の一段見出し。岸田首相が「家庭や職場において、日常生活に支障のない範囲で節電に協力をいただきたい」と首相官邸で記者団に語った、そうだ。大規模停電が発生しかねない緊急事態、「警報」が発令される状況にもかかわらず、「支障のない範囲で」などと、何とも緊張感に欠ける、緩ーいお願いではないの。

 読売一面トップの写真は、東京スカイツリーを遠景に、手前に商店街「雷門東部」の看板の大写し。写真説明に「政府による『電力需給逼迫警報』を受け、夜間のライトアップを取り止めた東京スカイツリー(22日午後、東京都台東区で)」とある。

 ページをめくって、二ページ下段の「岸田首相の一日」を読むと後段に次のようにある。

 ――(5時)53分、官邸。54分、報道各社のインタビュー。7時1分、東京・雷門の鳥料理店「鷹匠寿」で自民党の茂木幹事長、梶山弘志幹事長代行、木原官房副長官と会食。9時19分、公邸。

 朝日の「首相動静」、毎日の「首相日々」も、ほぼ同じ内容だ。五時五十四分のインタビューで、先述の緊張感ゼロの発言をしたのだと読める。そしてその緩ーくなった理由もほぼ分かった。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

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