もともと食い意地が張っているのだが、還暦まで二年という年齢のせいか、ますますその性癖が高じて、本屋に行っても、自然にその分野の本に手が伸びる。我ながら「行く末は、老衰で死んだわが家のネコのごとく、食い中風と笑われつつ…」と案じないでもない。で、四月十八日付の朝日新聞の記事「オピニオン 異議あり」を面白く読んだ。いろいろな意味で。

見出しは、「賞味期限切れだって食べられる」「売れ残った商品、捨てるのモッタイナイ」。紙面の半分を占める大ボリュームの記事のサワリを紹介すると――

東京・亀戸の食品スーパー「サンケイスーパー」では賞味期限の切れた缶詰などの加工食品や飲料を「モッタイナイ商品」と称して市価の半値程度で販売している。経営するのは水野二三雄さん(76)。

いわく「今から七年ほど前、大手冷凍食品メーカーの冷凍トラックが突然うちの店の前に乗り付けて、『都内の冷凍倉庫を統廃合するために倉庫の商品を整理することになった。ただでいいから引き取ってくれないか』と言うのです。トラックいっぱいに積んだ冷凍食品の中には、賞味期限を最大で四年ほど過ぎているものもありましたが、うちが引き取らなければ捨てるしかないと言うので、『もったいないなあ』と思って、試しに調理して食べてみたらおいしかった。倉庫で零下三十七度で冷凍していたということで味も風味も全く問題なかった」

「『これなら大丈夫だ』と思い、商品を引き取り『賞味期限切れ』と表示した上で市価の一割程度で売り出しました。同業者から通報があったのか、すぐに保健所の人が飛んできました。私が『文句を言う前に、この商品を持って帰って調理して食べてみてほしい。それでダメだと言うならうちは売らないよ』と言ったら、何も言わずに帰って行きました。お客さんは大変喜んでくれて、トラックいっぱいの商品はたった一日半で売り切れました」

水野社長のスーパーでは、約二万種の食品を仕入れていて、全てが賞味期限内に売れるわけではない。売れ残りは、一定のペナルティーを払って返品し、その商品は全て廃棄処分になる。「まだ食べられるのに、もったいないなあ」と思った。

「先の冷凍食品の一件があってしばらくしてから、私たちが試食した上で『賞味期限切れ』と表示して市価の半値程度で販売を始めたところ、お客さんは喜んで買ってくれました。『日付アレルギー』といったようなものがもっと強いかなとも思っていましたが、意外にも反発は少なかったですね」

「賞味期限が義務化される前の時代は、私たちは自分の目と鼻と舌で『この食べ物は食べて大丈夫か』ということを判断して食べていました。…きちんと殺菌された上で缶詰や真空パック詰めされた食品が多少時間がたったからと言ってすぐに食べられなくなるとは考えられません」

「…人間には五感があるわけですから、製造年月日さえ書いてあれば、それをもとに食べられるかどうか自分で判断すればいいのではないでしょうか」――

この欄でも何度か同じ趣旨の主張を書かせていただいた。我が意を得たり、である。で、記事の終わりに「取材を終えて」の小見出しで記者の感想があった。

「『モッタイナイ商品』売り場で、賞味期限を三カ月近く過ぎた真空パック詰めの煮豆を買ってきて、こわごわ食べてみた。味もにおいも問題なく、おいしかった。私がどんどん食べるのを見て、初めは『そんな日付の古いもの食べられる?』などと言っていた子どもたちも食べ始めた。おなかをこわすことはなかった。こんな食品を捨てるのは、やはり『モッタイナイ』かもしれない」

署名からすると男性の記者。想像するに、三十代か。こんないい記事を書いておいて、最後は「モッタイナイかもしれない」かね。お育ちのいい、お勉強のできる、お坊ちゃまなのね。この感覚で食品偽装に関する記事を書かれちゃ、書かれる側もたまらんなぁ。水野さんの勇気と反骨精神に拍手を送りつつ、オジサンは、むしろ記者のお上品さにもっと驚いたゾ――。

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