「招魂祭までは、露地の苗は植えられないよ。遅霜があるからね」――仲良くしている農業者に何年も前に忠告された言葉を守って、今年も我慢した。若い人には通じないだろうけど、招魂祭とは護国神社のお祭りのこと。

 五月になると、あちこちの店の店頭に野菜の苗が並び始める。せかされるように買って、気温が高い日が続くと、苗たちが「こんな狭いポットは苦しいわ。こんなに暖かいんだから、早く畑に植えてよ」と要求している気がする。でも、我慢なのだ。

 案の定、招魂祭の宵宮の三、四日前、朝の最低気温が三、四度まで下がった。霜こそ降りなかったが、寒さに弱いズッキーニなどは植えていたら、やられたかも知れない。

 コロナ禍のために、夜店もない静かな招魂祭が終わった。もう大丈夫。明日は朝から苗を定植しよう。東鷹栖の農家の母さんが、「カッコウの鳴き声を聞いた」と教えてくれたから、枝豆の種も蒔こう。緊急事態宣言の下で重苦しい雰囲気がまちを覆うが、一年で一番気持ちが弾む季節の到来だ。薫風に身を任せ、土の感触を精一杯楽しむぞ。枕はここまで。

 朝日新聞が五月二十六日付朝刊で「夏の東京五輪 中止の決断を首相に求める」との社説を掲載した。小欄で何度か書いたが、朝日は読売、毎日、日経などとともに、東京オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナーだそうだ。これまでの東京オリ・パラ報道で、「腰が引けているんじゃないの?」と感じる記事は、その“パートナーシップ”が背景にあるのではと、穿った見方をしたりした。だから、突如として、あえて菅義偉首相を名指しして、堂々と「中止を求める」と書いたことに、正直驚いた。

 社説は、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない状況の東京で、この夏、オリ・パラ開催に突き進む政府、東京都、五輪関係者に対する不信と反発は広がるばかりだ、と現状を確認する。そして、「生命・健康が最優先」「『賭け』は許されない」「憲章の理念はどこへ」という小見出しを立てて、朝日の世論調査で今夏の開催を支持すると答えた人が一四%にとどまる事実も示し、東京オリ・パラの開催がいかに理不尽な企てかを直言する。

 この社説の“ハイライト”部分を引用しよう。

 ――(前略)誘致時に唱えた復興五輪・コンパクト五輪のめっきがはがれ、「コロナに打ち勝った証し」も消えた今、五輪は政権を維持し、選挙に臨むための道具になりつつある。国民の声がどうあろうが、首相は開催する意向だと伝えられる。

(工藤 稔)

(全文は本紙または電子版でご覧ください。)

●お申込みはこちらから購読お申込み

●電子版の購読は新聞オンライン.COM

ご意見・ご感想お待ちしております。